トーク対談 
『ネットの匠〜インターネットで《こと》を起こす方法を考える』

日時 6月30日PM7時〜
場所 匠ぷらっとスペース
主催 株式会社ニオムネット 凝理堂
   NPO法人匠の町しもすわあきないプロジェクト
出演 水木雄太(「ホテル・ルワンダ」日本公開を求める会)
   大橋俊夫(インダストリーネットワーク代表取締役)
   コーディネータ 柴たかね 凝理堂(株式会社ニオムネット)


参加人数 約23名


水木 はじめに自己紹介を。現在会社を辞め、いわゆる「フリーター」。映画ルワンダを日本で上映する活動をする代表を務めてさせてい頂いている。この映画は、世界的に評価が高いにもかかわらず、キャストの知名度や日本の需要がないのではないか、という映画のプロである配給会社の考えで、日本で上映されない方向になっていた。映画ファン同士が集まり、業界に投げかけよう、ということでインターネットを通じて面識のなかったファン同士がこの活動を始めた。ネット上で色々学ぶことが多かった。

大橋 機械工具を販売する会社の倅。バブル崩壊後、というよりプラザ合意後の製造業は悩みの20年だったと言える。10年前、お上に任せておかず自分達でやろう、ということになり、仲間に呼びかけて電気自動車を作ろうとしたりしていた。ちょうどその頃、インターネットが普及し始め、96年に仲間に呼びかけてインターネット上の工業団地である「諏訪バーチャル工業団地」を立ち上げた。最終的には150人が集まった。メーリングリストを作ったところ、地域経済や中国、世間話などの話題で4000通くらいのメールがやり取りされ、自分達のことを自分たちで考えようとする雰囲気になった。「インターネットでコトを起こす」という今日のテーマとは異なってしまうかもしれないが、これは顔のつながりでのコトの起こし方の例になるか。大規模に、あるいは小さくコトを起こすにはどうしたら良いか、考えて生きたい。

 MIXI(ミクシィ)説明を。

水木 SNS(ソーシャルネットワークサービス)のひとつ。インターネット上の社交場のようなもの。特定のテーマのもとに、人が集まるような感じになっている。ブログを書いている人もいるし、簡単なホームページを持っている人もいる。若い人同士で初対面の人と「MIXIやってる?」と聞きあうことも一般的になりつつある。
 映画「ルワンダ」の活動について。どのように始まっていったのか。

水木 話を聞いてとりあえず、何をして良いかわからないのでネットを検索したりしてみた。映画を巡る状況が見えてきて、仲間がほしいと思ってMIXIにたどり着いた。「ルワンダ」については映画ファン内では有名であり、「コミュニティ」で長野出身の方に出会った。そこで中心となったスタッフが集まり、活動が始まった。

大橋 かつてホームページが登場した頃、誰でも世界に向けて発信できると話題になって「すごい」と思った。当時まだ企業ホームページが無かったが、企業でやればきっとすごいことになると思った。普通だったら無理なことも、ネットが人をつなげてコトを動かすときの重要な役割を果たした。ネットで政治、まちおこし、ものづくりの形も変わった。「昔のガンダムのおもちゃがほしい」とネットで言って見たら、バンダイが復刻するという動きになった。

 友人の中で話のできる人はいたか?

水木 仲間を探すと言うことに関しては、映画館に当時勤務していたので友人はいた。しかし、ことの性質が映画産業に立てつく様なことでもあったので、情熱が必要なことであり、簡単にはいかなかった。面識があっても距離感が違う。

大橋 色々なチャンネルのひとつとして、インターネットがある。仲間、他人、人を動かす想いがすわっていれば、インターネットでなくても人は動く。周りからの規制がない分、ネットは個人攻撃に動く傾向がありまずい部分もあるが、社会の文脈から外れてコトが出来る強みがある。製造業では、工業集積。三条、大田区、諏訪などの会社は、顔でつながっている。そこが産業集積の強みであって、社会的基盤ともいえる。どこかで切れてもどこかでつながる。個人的には学校がカギなのではないかと思っている。自分の場合も同級生でつながった面がある。東京はネットワークが切れてしまうと二度とつながらなくなる。バブルや高速道路建設がそれを助長したのではないか。大田区は限界を超えてしまったか。墨田区は若干残っているような気がする。

 「ルワンダ」を巡る活動は、オンとオフを使い分けたところがある。バランス感覚に富んだ活動が成果につながった。

水木 共通の目的だけのための友人というか、仲間。マスコミ対応など、20人くらいで役割分担した。20人の中には血の通った仲間もいる。署名をタダひたすら集める時期にも、ネットの人もいたし、紙で集めた人もいる。一人一人が参加できている感覚が活動の成功につながったと思う。

大橋  かつてマスコミの中で、ネットワーク社会をタコツボ社会と考えていたところがあった。小さなタコツボがいっぱいできて、それぞれの中で社会を作っていると言っていたが、今日のこの状況を見ると卓見だったかもしれないが、ネット社会はビジョンについて「この指とまれ」形式で人が集まる。ネット接続者が全員が同じ文脈を持てないが、平等に機会が与えられている。情報技術はコストをかけずに、意見や要望が拾われる社会を作った。夢のよう話だが、日本人から1円ずつカンパをもらえば、1億円になるはずだ。しかし、1人ずつに説明して行く事を考えると、この話は成り立たなくなるが、インターネットならば成立する。Web2.0と言う言葉が聞かれているが、インターネットも第二段階に来ている。

 ルワンダのコミュニティは1800人になった。Webと両輪の活動は、水木さんがうまく神輿に乗せられて活動がうまく行ったと感じる。今までの運動のリーダーとは違う感じがする。ものの進め方などで工夫は。

水木 30歳前後の男女会員が中心だった、大学を出て7〜8年くらいで、落ち着いた方が多かった。自分自身の得意不得意がある程度わかっている方たちだった。自分はあまり計画性もない方だし、映画好きが好きでルワンダに行ったことがあるというだけだった。キャラクター的にマスコット的な感じで上に立たせていただいた。

 リーダーについて。カリスマ性などがネット上では少し違う。

大橋 声はかけられるけれども継続が難しい。世の常としてはしぼんでゆくこともある。みんながのれる話ばかりでも無い。東京の署名が多いみたいだが、新潟も多いのは何故?

水木  やる気のあるおばちゃんがコネクションでオフラインで署名を集めた。1人で100人以上も。東京ではこういうのはなかなか無いと思う。Web署名が多かった。

 趣旨が明快だったため、多くの人の協力が得られたのでは。

大橋 アメリカでは最近までプロジェクトマネジメントというものが注目されている。しかし、混沌とした時代にこういったコトを起こすためには、やはり人材やリーダーが必要だと言うことが言われ始めている。集団についてはひとつの(たとえ)話がある。10人の仲間は強いつながりでつながるが、100人から150人は弱いつながりになる。1000人から10000人は縒り弱いつながりになる。逆に言えば、10人の関係が濃いところに伝われば、コト動くといわれている。また、人間が覚えられるのは脳学者によると150人程度と言われている。しかし、ネットならもっと多く作れるのでは。

 署名は結局5000人集まった。どのタイミングで活動の盛り上がりを感じたか。

水木 3万人を目標としていたが途中で配給会社から連絡があり、そんなに集まるならやりましょうと。署名ストップの時点で5000通。もっと集まったかもしれない。雑誌や新聞で扱われると署名が増えるが、しかし3万は何年かかるのだろう、という感じだった。人気サイトで取り上げられたり、リンクが張られたりして署名が増えた。

 「ほぼ日刊イトイ新聞」などで取り上げられた。テレビは「目覚ましテレビ」など。

水木 結果的に客が見込めないから公開しないということだったが、連日満席だった。マスコミも話題として扱いやすかったのだと思う。アフリカへ旅行したことをきっかけに、一人の青年がはじめた活動、という使いやすい、できすぎるくらいいい話だったと思う。これがきっかけで映画会社に就職までしてしまった。もう辞めたけど。公開決定した後の方がマスコミの反応は良かった。

大橋  マスコミの力は大きい。インターネットの広告をテレビで行うくらい。逆の話だけど、自分が見たい映画が必ずしも他人が見たいわけではない、という話がある。水木さんの話を否定するわけではなくて、インターネットは逆に一人一人にピンポイントに情報を伝えることができるもの。一人一人が見たいものを配給できる仕組みが、最近出来つつある。ロングテール現象という言葉がある。Web2.0現象の一つで、i-Tunesなどの音楽配信の仕組みがそれにあたる。普通、音楽を売るためには、できるだけ多く売ることを目指して、多くダウンロードさせるコトを狙うけれども、i-Tunesはそれを必ずしも狙っていない。アメリカの中で1年を通じて1回しかダウンロードされないくらい全然売れない局を配信できることが可能になった。大きなビジネスを行うのではなく、小さなビジネスを重ねることができるようになった。その1人のために供給することもできるようになってきている。
柴 DVDで見るのも良いが、岡谷スカラ座でヒトラー最後の10日間がかかった。人が多く入っていなかったが、映画館で見てもらうことも大切。自分が笑えないところで笑い声が起きたり、観客の反応が見れるから。ルワンダがうまくいけば、次の質が良くて客の入りが見込めない映画の上映もあるかも。ルワンダの宣伝を。

水木 あらすじを紹介。ルワンダはアフリカの国。フツ族とツチ族に別れて、長年争っている。1994年におきた虐殺事件の際の実話を元にしている。自分はフツ族で、奥さんがツチ族の一流ホテルに勤めるホテルマンが主人公。虐殺を逃れてツチ族がホテルに押し寄せる。最初は家族だけを守ろうと思っていた彼は、最終的に1200人の人を守りぬいたというお話。社会的な映画。中学校や高校などでも見せていたり、若いこじゃれたカップルも来ていた。家族の感動的な物語という感じ。一方で、ダイハード的な過酷な現実に立ち向かう、というところもある。R指定はかかっていないので、暴力については、直接的なシーンは少ない。人の想像力に訴えかける感じで表現されている。
柴 職務に忠実だった、ともいえる。スカラ座では9.11やUnited93、WTCが上演された。25万人で6スクリーンも持っているのは少ないはず。是非見に行ってほしい。
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<質疑>
Q 水木さんに質問。活動を成功させるためのキーワードがあれば教えてほしい。
A (水木)活動の中で、アドバイスをもらったことに「楽しそうにやれ」ということがあった。右とか左とか誤解を受けやすい話。また、「人に知ってもらう」ためには、やはり楽しそうにやっていないと人は寄ってこない。例えば、blogを面白そうにつづるとか。あと、「縁を大切に」。ネットは希薄になりがちだが。
Q 柴さんからこの映画について聞いて見る気になった。しかし、この映画にどうしてこんなに熱を入れられるのか。
A (水木)社会的に評価されている映画が公開されないことへの憤りかもしれない。
Q 映画のよさについて
A (柴)知らない人たちと映画館と言う空間を共有して見るというところ。自分と反応の違うところが見えるところ。
A (水木)ヘビーな日々だった。楽しいことばかりではなかった、何の見返りもなく、何のためにやっているの、と思った。しかし、楽しんでやろう、というのが残った20人には結果的に共通していた。
Q 成功するための秘訣は
A (大橋)成功するための秘訣は「始めること」「成功するまでやめないこと」
A (水木)公開まで続けるブログ というのをやった。面白そうに伝わったと思う。